タバコ一箱の社会コストは?

 ドイツの公共施設やレストラン、企業などでは、禁煙が常識です。レストランの前や病院の前などでは、肩身が狭そうにタバコを吸う人の光景がよく見られます。こうして、間接禁煙によって被害を被る人の人権を守ります。

 ただそれによって、路上で歩きながら喫煙する人が増えたのも事実。これも、問題だと思います。でも一部の自治体を除くと、まだそこまで規制するには至っていません。

 日本では、2020年の東京オリンピックに向けて禁煙が議論されています。でも、禁煙ばかりでなく、間接禁煙の問題がそれほど真剣に配慮されていないと思われてなりません。特に、禁煙規制が非禁煙者の人権に関わる問題だという意識がなさすぎます。

 10年ほど前に、独ハンブルク大学のアダムス経済学教授らのグループが、24歳の喫煙者がタバコを一箱吸うことによって発生する社会の損失(社会コスト)について試算した結果を発表したことがあります。

 アダムス教授らの計算方法の特徴は、喫煙者が喫煙によって寿命を縮めるものと仮定し、寿命短縮を社会の損失として見て、社会コストに加算していることです。喫煙によって、寿命が平均10年短くなるとしました。それによって、喫煙者一人当り10万ユーロ(約1300万円相当)の価値が失われます。

 ここでは、米国のスタディによって試算された値を流用しました。喫煙者はタバコ一箱吸うことによって、22.10ユーロ(約3300円)の価値を失う勘定になります。

 次に大きなコスト要因となるのは、間接喫煙によって喫煙者の配偶者に健康障害が発生することです。そのコストがタバコ一箱当たり5.93ユーロ(約900円)と試算しました。

 それに対し、喫煙者は喫煙によってタバコ税を支払います。また寿命が短くなる分、年金資金に余剰を残します。喫煙者はこうして、国家に『収入』ももたらします。

 損失とこの『収入』を差し引き勘定すると、24歳の喫煙者がタバコを一箱吸うことによって39.99ユーロ(約5200円)の社会コストを発生させることになります。ここで損失には、喫煙者の医療費なども加算されていると見られます。

 次に、24歳の喫煙者一人が一生の間に発生させる平均社会コストを試算すると、17万ユーロ余(約2200万円)になりました。それをさらに24歳の喫煙者全体に換算すると、24歳の喫煙者は全体で一生の間に国全体に551億ユーロ(約7兆2000億円)の社会コストを発生させます。

 そのコストの84%が喫煙者自身によって発生し、残りの16%が間接禁煙による被害だとしています。ただこれは、喫煙者の寿命の短縮を損失として見たから、喫煙者自身の損失の割合が多くなった可能性もあります。

 この社会コストは、24歳の喫煙者だけによるものです。喫煙者全体にすると、一体どれだけの社会損失になるのでしょうか。

 人の寿命をこう数字で換算することに悲しさも感じますが、こうした数字によって人一人が生きていることに社会的責任があることを知るのも意味があることだと思います。

(2018年10月11日、まさお)

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