プロローグ冒頭文
2011年3月14日、セバスチァン・スラーデクさんが出社すると、ファクシミリから白い紙がたくさん打ち出されていた。オフィスの床に、山のように散らばっている。
セバスチァンさんは当時、電力会社EWSシェーナウの販売責任者。シェーナウは、ドイツ南西部に広がる「黒い森(シュヴァルツヴァルト)」にある。人口2500人程度の小さな町だ。セバスチァンさんはこの自然の宝庫「黒い森」から、母親のウルズラさん、父親のミヒァエルさんとともにグリーン電力だけを供給している。現在、全国で19万件近くの顧客と契約を結び、一般消費者ばかりでなく中小企業などにもグリーン電力を供給している。
ドイツでは、電力市場が自由化されている。一般消費者はどこに住んでいようが、自由に電力供給会社を選択できるのだ。電力商品も自由に選ぶことができる。
ファクシミリから打ち出された紙はすべて、これまで電力を供給してもらっている電力会社との契約を解約したい、スラーデクさんの会社からグリーン電力がほしいというもの。そのための申込書が、ドイツ各地から寄せられたのだった。
福島第一原子力発電では、3月12日と14日に水素爆発が起こっていた。それを目の当たりにしたドイツ市民が、咄嗟に安全なグリーン電力に切り替えようとした。セバスチャンさんによると、3月11日の福一原発事故をきっかけにグリーン電力への契約の申し込みが殺到、事故直後は毎日事故前の8倍の申込書が届いたという。
(2018年7月13日、まさお)
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