「わたし、真剣なお付き合いをしているの」

 何人かで共同で、知的障害と身体障害のある女性の里親のようなことをしているのは、どこかで書いたことがあると思います。女性のことは生後3日目から知っていますが、その子が今はもう、24歳になりました。

 成人するまでは、障害者のこども用施設にいました。その時大人の女性になったら、性欲のことや妊娠したらどうすればいいかなどちょっと心配になって、施設の職員に相談したことがあります。

 その時は、これまでの経験からすると、この子のような障害のあるこどもの場合、大人になっても性欲はそれほど強くならないといわれました。そういうものなのか、無用に心配しなくていいのかと思ったものでした。

 女性は成人すると、成人向けのグループホームに入居しながら工房で働くようになります。

 ある日のことです。突然、「わたし、寝たの!」といわれました。「寝たの!」と聞いて、みんなびっくりしました。まさかと思ったのと同時に、一体誰とと不安が頭をよぎります。

 相手は、グループホームで世話人として働くソーシャルワーカーの男性とわかりました。ただよく聞いて見ると、肉体関係とかそういう色っぽいものではなく、添い寝をしてもらったのでした。

 それで、ぴーんときました。女性の父親は男性意識過剰なとても厳しい父親で、こどもの時から泣いたりしただけで怒鳴られ、部屋に閉じ込められるなどしていました。その結果として、女性は極度のファーザーコンプレックスを持っています。その反動として、やさしい男性に慰めてもらいたいという強い欲求も持っています。父親以外であれば、ぼくや他の男性に対していつも、甘えたいという気持ちを抱いていました。

 グルームホームの世話人に添い寝をしてもらうのも、そのファーザーコンプレックスからきていると思います。添い寝に味をしめたのか、ぼくの連れ合いにも「(ぼくと)一緒に寝てもいい?」と聞いたりしてたようです。連れ合いは、ぼくに直接聞いてみたらと返事していたようですが、直接聞かれたことはありません。

 その時は、ファーザーコンプレックスかあ、困ったなあ、どうすればいいのかと思いつつ、添い寝程度ならまずは一安心と感じていました。

昨年2023年6月にベルリンで行われた知的障害など複数の障害のある人たちのスポーツの祭典「スペシャルオリンピックス世界大会」から

 ところがそのうちに、「わたし、真剣なお付き合いをしているの」といい出しはじめたのです。ちょっと待て。「真剣なお付き合い」とは何だ、どういうこと???

 相手は、添い寝をしてもらった男性だとは想像できました。しかし真剣に付き合うことなんて、ありうるのかと思いました。女性は知的障害と身体障害があり、男性は障害のないソーシャルワーカーです。

 まもなくして、女性が荒れ出します。男性がもうグループホームにこなくなったというのです。「だからわたし、頭にきているの」と、壁に頭をぶつけたりします。そのうちに、男性が退職することになったとわかりました。ソーシャルワーカーとして、グルームホームの女性と恋仲になるともう、障害者の施設などではもうソーシャルワーカーとして働けなくなるのだということでした。

 しかし、女性の怒りは静まりません。それに加え、日本にいる女性の祖母が亡くなってしまいました。女性の祖母は、女性の母親が病気で倒れて障害が残り、自分で女性を育てていけなくなった時、日本からきて孫の世話をしていました。女性の母親が一人で暮らせるようになって日本に帰国しましたが、女性はそれ以来祖母に会えないまま、死に別れてしまいました。

 女性は祖母が亡くなったことを思い出すと、よく急に泣き出していました。そのためできるだけ、女性の祖母のことは話題にしないようにしました。

 女性は精神的に二重の負担を負い、より荒れるようになっていきます。切れることも多くなりました。女性の母親が祖母の葬儀で日本に一時帰国するのを利用して、里親として女性を週末にわが家に引き取ることにします。

 例の男性とはその最初の週末の前に電話で話をし、わが家で女性と一緒に引き合わせることにしました。またその時に、男性の気持ちも確認しようと思いました。

 ぼくは、男性が添い寝をするうちに女性に情が移ってしまったのだと思っていました。男性は女性のことが気になりだし、いろいろ悩み、家族とも相談して、自分の気持ちを抑えるべきではないと決心したといいました。それでグルームホームの仕事も止め、これからはグループホームの承諾を得て、真剣に付き合うことにするのだと説明してくれました。

 翌週の週末からはぼくが土曜日のお昼に女性をグループホームに迎えにいき、その後に女性を男性に託して、日曜日の夕方にぼくが女性を男性から受け取って、グループホームに連れていくことになります。

 それが数週間続きました。そのうちに男性はグループホームの承諾を得て、男性が自分で女性を迎えにいくことができるようになります。週末は、自分のアポートで女性と一緒に過ごすようになります。

 こうして、知的障害と身体障害のある女性と障害のない男性のカップルが誕生したのです。
 
(2024年3月21日、まさお)

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関連サイト:
ドイツ身体複数障害者協会の公式サイト(ドイツ語)

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