2024年3月20日掲載 − HOME − 脱原発一覧 − 記事
ヨーロッパの原発は対ロシアのアキレス腱

欧州連合(EU)に立地する原発の核燃料がロシアに依存しているが、核燃料を製造するための材料がロシアによるウクライナ侵攻戦争に対するEUの制裁対象になっていない(「核燃料のロシア依存は問題ない?」)。


核燃料の燃料集合体を製造するのはフランスの新フラマトム社だが、製造工場はドイツ北西部のリンゲンにある。製造に必要となる六フッカウラン(ウラン濃縮する原料)がすべて、ロシアから輸入されている。


ぼくは記事で、制裁対象になっていないことに対して問題提起した。しかし見方を変えると、核燃料を制裁対象にするとヨーロッパにおいてその影響が大きく、制裁対象にできないともいえる。


それはなぜか。


EUはこれまで、ロシアからの石油、石炭、天然ガスを経済制裁の対象にしている。しかしこれら化石燃料は比較的簡単に、他国から輸入することができる。


それに対して、核燃料の燃料集合体はすぐに他のメーカーのものに切り替えることはできない。そのためには、数年間前から事前に準備しなければならない。核燃料が自動車のガソリンと違うこともすでに指摘した(「核燃料は簡単に他社製に切り替えられるのか」)。


ロシアから納入されるのは、核燃料自体ではなくそのための材料である六フッカウランなのだから、それを他国から輸入すればいいではないかと思うかもしれない。しかし原子力技術市場は特殊な市場で、競争が激化して安全性がないがしろにされないように厳重に管理されている。余剰生産力もほとんどない。そのため、新しい納入先はそう簡単には見つからない。


ドイツのリンゲンから核燃料が納入されていると見られるのは、フランス(63%)、ベルギー(46%)、フィンランド(35%)、スイス(35%)、スウェーデン(30%)、スペイン(20%)、イギリス(15%)、オランダ(3%)だ。カッコ内は、2022年の発電における原発の依存度を示している。


さらにロシアから直接核燃料を輸入しているのは、ハンガリー(47%)、スロベニア(43%)、チェコ(37%)、ブルガリア(33%)の東欧諸国だ。


東欧諸国に関しては、ハンガリーとスロベニアの現政権は新ロシア派であるほか、その他の諸国は冷戦時代のようなロシア支配はもうごめんという意識が強く、ウクライナ侵攻戦争開始後ロシアに対する恐怖感が強い。そのためロシアに対する対応は、各国ごとに異なる。


エムスラント
独リンゲンにある燃料集合体工場は、この冷却塔の近くにある。冷却塔はガス発電所の冷却塔だが、そのすぐ向かいにエムスラント原発があり、その横に燃料集合体製造工場がある

ドイツから核燃料が納入されている西欧諸国のウクライナに対する支援状況を見てみたい。ただしスイスは中立国で武器支援はしないので、ここではスイスの状況は見ない。


ここで注目したいのは、フランス、ベルギー、スペインの対応だ。


2024年1月15日までのウクライナ支援額は、ベルギー(22億ユーロ、そのうち軍事支援は3億ユーロ)、フランス(18億ユーロ、そのうち軍事支援は6億ユーロ)、スペイン(9億ユーロ、そのうち軍事支援は0.3億ユーロ)だ。国の経済力に比べて支援額が低いうえ、軍事支援の割合がさらに少ないのがわかる。


それに対して脱原発したドイツの支援額は、米国に次いで第2位で総額220億ユーロ。そのうち180億ユーロが軍事支援だ。


ウクライナ侵攻後に中立の立場を破って、NATOに加盟したロシアの隣国2カ国はどうかというと、スウェーデン(30億ユーロ、そのうち軍事支援は20億ユーロ)、フィンランド(19億ユーロ、そのうち軍事支援は16億ユーロ)となる。しかし同じくスカンジナビア諸国で原発のないデーマーク(88億ユーロ、そのうち軍事支援は84億ユーロ)とノルウェー(76億ユーロ、そのうち軍事支援は38億ユーロ)が支援額で第4位、第5位であるのに比べると、かなり少ない。


ドイツに次いで支援国第3位のイギリスは総額166億ユーロで、そのうち91億ユーロが軍事支援。さらに原発依存度の低いオランダは支援額では日本に次いで第7位で、総額62億ユーロ中44億ユーロが軍事支援となる。


こうして見ると、原子力発電に依存し、核燃料をロシアに依存している国ではウクライナに対する支援額自体が少ないうえ、そのうちの軍事支援額に至ってはもっと少ないことがわかる。


核燃料のためにロシアからその材料を納入してもらわないと、自国において電力不足が深刻になり、産業活動どころか、日常生活にたいへん大きな影響が出るからだ。そのため、ウクライナ支援でロシアを刺激したくないというのが本音ではないのだろうか。


ドイツでは原発がもう動いていないから、安全、問題ないともいえない。ヨーロッパ大陸では送電網が連系されているので、どこかで停電すると、ドイツでもその影響でブラックアウトになってしまう可能性が高い。


核燃料のロシア依存の問題が、これまでメディアにおいて大きく取り上げられず、核燃料材料を制裁の対象とするよう求める声がないのも、これでよくわかると思う。


この現実は、原発だけではなく、ヨーロッパの産業と生活、さらにその安定性と安全もロシアに依存していることを意味する。ロシアがヨーロッパに対する核燃料材料の供給を停止したらどうなるのかと思うと、ぞっとする。


ロシアは、ヨーロッパの弱点であるアキレス腱をしっかりと握っている。ヨーロッパは、原発依存と核燃料材料のロシア依存を軽減することを考えなければならない。


(2024年3月20日)
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関連サイト:
仏フラマトム社英語サイトの燃料集合体製造会社ANF社の説明
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