欧州連合(EU)に立地する原発の核燃料が、ロシアに依存している問題について書いたことがある(「核燃料のロシア依存は問題ない?」)。
ドイツ北西部リンゲンに、核燃料の燃料集合体製造工場がある。工場は、フランスの新フラマトム社の子会社アドヴァンスド・ニュークリア・フュエルス社(ANF)が運用する。燃料集合体の製造に必要となる六フッ化ウランは、ロシアから納入されている。
EUはウクライナ侵攻戦争で、ロシアからの石油、石炭、天然ガスを経済制裁の対象にした。しかしロシアからの核燃料材は、経済制裁の対象にしていない。
六フッ化ウランを納入しているのは、ロシアの国営原子力会社Rosatom。Rosatomがさらに仏ANF社とジョイントベンチャーを結成するのは、どこかで書いたはずだ。ただその時は、その目的をよく理解していなかった。
ジョイントベンチャーの目的は、独リンゲンの工場で旧ソ連で開発されたロシア型加圧水型炉の燃料集合体を製造するためだった。そのためにRosatomが製造機械を持ち込み、核燃料材も納入する予定という。
EU域内の原子力発電所では、東欧諸国で稼働している原発のほとんどが旧ソ連製だ。チェコとスロバキア、ハンガリー、ブルガリアにおいて、旧ソ連製の原発が稼働している。
チェコのテメリン原発では、核燃料の燃料集合体をロシア製ではなく、米国ウェスティングハウス社製に切り替えたことがある。しかし、東側の原発に西側の核燃料が技術的に適合しない問題が発生。ロシア製に戻した経緯がある。
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チェコのテメリン原発では、旧ソ連で開発されたロシア型加圧水型炉(VVER-1000/320、英語翻訳ではWWER)が稼働している |
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独リンゲンの工場でロシア型燃料集合体を製造するため、許認可申請がすでに立地州のニーダーザクセン州に提出され、審査中だ。原子力関連施設には、立地州の許認可が必要だからだ。
原子力法に基づく審査では、安全性が一番のポイントになる。
ただロシア型核燃料がドイツで製造されれば、ドイツ製となる。EUが将来、核燃料も経済制裁の対象にしても、経済制裁対象にはならないと目論んでいるからではないかと想像できる。
ドイツ政府は、原子力においてもロシア依存から脱皮すべきだという立場。しかしフランスをはじめ西ヨーロッパの原発は、ロシアからの六フッ化ウランに依存している。特にフランスが、原子力をロシアに対する経済制裁の対象とすることに反発している。
ドイツ環境省の定例記者会見でのコメントでは、ドイツ側はロシアの国営企業Rosatomの人材がリンゲンの工場に入ってくることで、西側の原子力技術情報がロシア側に流れてしまうのではないかと危惧している。さらにロシアの人材が、ドイツの原子力法で規定されている人材の適正に準じているのかも疑問視している。
ドイツは商業用の原発をすべて停止させながら、その他の原子力産業からは撤退しなかったツケだともいえる。
許認可手続きは立地州の管轄だが、最終的には国の了解も得なければならない。さて、どういう結論が出るのか。
なお戦争状態にあるウクライナの原発も旧ソ連製だが、戦争のはじまる前から燃料集合体を米国ウェスティングハウス製に変更する準備をはじめていた。ウクライナは2022年6月、燃料集合体の納入に関してウェスティングハウス社と契約を締結している。
(2024年2月09日) |