石器時代の銀行

 ドイツ南西部に、ガムメスフェルトという村があります。住民は500人余り。その村に、ドイツで一番小さな銀行「ライフアイゼン銀行ガムメスフェルト」があります。

 銀行は協同組合銀行で、村の住民260人が出資しています。

 職員はブライターさん(46)一人。ブライターさんは銀行の経営者であり、掃除も含めてすべての業務を一人で処理しています。

 10年前、これまで40年間銀行を守ってきたフォークト(当時77)さんから銀行を引き受けました。ブライターさんは、それまで一流銀行の銀行マンでした。しかし、フォークトさんが長い間守ってきた銀行本来の姿に心を打たれ、後継者として応募したのでした。

 銀行内には、小さなカウンターのほか、机、棚、金庫などしかありません。ブライターさんが入社して、はじめてノートブックを入れました。ネット接続もできるようになりました。

 しかし他の銀行どころか、上部組織である協同組合銀行網ともネットで接続されていません。振込用紙は手書きで記入し、郵便で送ります。通帳も手書きで記入します。前任のフォークトさんが40年間続けてきたように、タイプライター1つですべての銀行業務を行っています。

 もちろん、キャッシュカードも、ATMもありません。

 そのほうが、コストがかかりません。こうした設備に投資するには、手数料を引き上げるしかありません。だからブライターさんは、不要な設備にはお金をかけないといいます。

 お金を預かり、安全に管理するのが銀行の役割です。主な業務は、入金、出金、振込です。顧客は、地元の村と周辺地域の顔見知りだけ。1000人にもなりません。でも、銀行の資産額は3000万ユーロ(約40億円)に上ります。

 そのお金で、貸付けも行います。しかし貸付けは、原則として出資者にしか行いません。だから、安全です。これまで、返済できなかったケースは1件しかないと、ブライターさんはいいます。

 銀行は一時、一人で業務が行われているのは危険だとして金融監視当局から改善命令を受けました。しかしフォークトさんは頑固として『石器時代』の銀行を続けてきました。そのため、銀行は一時ライセンスも剥奪された。しかしフォークトさんは戦い続け、最終的に裁判で勝ちました。こうしてフォークトさんは、銀行をブライターさんに引き継ぐことができました。

 銀行は、2008年の世界的な金融危機の影響もまったく受けませんでした。地域密着型で、地道に健全な経営を続けているからです。

 当時、ポルシェで乗り付けてきた男性がいました。カウンターでいきなりかばんから20万ユーロの現金を出し、預けたいといいました。しかしブライターさんは、門前払しています。

 ブライターさんにとって一番の悩みは、規制が厳しくなる毎にコストが膨らんでいくことです。銀行は通常、インターネットでネットワーク化されています。それが、コスト削減にあるといわれます。でもブライターさんにいわせると、そうではありません。ネットワーク化するからコストがかかり、規制も厳しくなります。それが、コストを発生させる原因になります。

 地元住民のために窓口業務に徹底して、資本を蓄えない銀行。それによって、コストを最低限に抑えています。資本主義の最先端でばくちまがいの投資をしながら利益を追求する他の銀行。そのほうが、銀行本来の姿ではないように見えます。

(2018年8月17日、まさお)

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