2018年6月11日更新 − HOME − 再エネ一覧 − 記事
ドイツのFIT制度、入札で競争論理を取り入れ:
(3)市民発電はどうなるのか?

入札制度の導入で気になるのは、ドイツで再生可能エネルギー普及にとても貢献してきた市民発電の動向だ。市民発電では、一般企業に比べて資金力に限界があるだけに、入札制度の影響が心配だ。


ドイツの市民発電では、市民グループが独自に会社(有限会社など)や協同組合を設立しているケースが目立つ。


以下の表 2 では、昨年行なわれた3回の陸上風力発電の入札における市民発電の応札、落札の状況を示す。


表 2  陸上風力発電の2017年入札における市民発電の状況
(出所:ドイツ送電網規制機関のデータから筆者作成)

表 2 からわかるように、いずれの入札においても市民発電が入札対象容量の大半を落札し、たいへん健闘していることがわかる。


市民発電が健闘した背景には、入札において市民発電が優遇されているからだ。


その前に、まず市民発電が応札できる組織の条件について見ておく必要がある。


応札する市民発電団体は、最低10人の自然人で構成され、そのうちの誰かが10%を超える表決権を持っていてはならない。株の保有期間は最低2年。また、地元住民が全体の51%超の表決権を有しているほか、地元自治体も10%資本参加していなければならない。なお建設権を得ても、それを譲渡することが事前に決まっていてはならない。


つまり、発電施設を地元に設置する地元密着型市民発電で、組織内に大株主がおらず、市民が均等に株を有する組織でなければならないということだ。


次に、一般企業応札者と市民発電応札者の入札条件を以下の表 3 にまとめてみる。


表 3  一般企業応札者と市民発電応札者の入札条件
(出所:自然エネルギー(Naturstrom)社の資料から)

再生可能エネルギーに特化した電力会社で、市民発電をサポートしている自然エネルギー(Naturstrom)社のドミニク・シェーンホフさんは、過去の入札制度において市民発電にも十分なチャンスがあることが証明されたとする。しかし同時に、入札制度の導入によって陸上風力発電の普及が毎年制限され、今後劇的な変化をもたらすと警告する。


ドイツ政府は2017年の入札の結果、2018年の入札において最高法定応札額を1kWh当り5セント(6.5円)にするとしたが、シェーンホフさんはそれではやっていけないとした。実際、政府はそれを6.3セント(8円)に引き上げている。


シェーンホフさんはまた、入札を適用する発電容量の下限を750kWとするのは、中小の市民発電にとっては負担が大きすぎるとし、10MWまでの施設には入札制度を適用せず、電気の買取り価格をそれより大きい施設に対する入札結果に応じて決めるべきだと主張する。


陸上風力発電の動向を分析している陸上風力発電専門機構のユルゲン・クヴェンティンさんも、入札制度では市民発電においても大きな組織が有利になるだけで、中小の市民発電団体が入札に参加できなくなってしまう可能性があると警告する。


次回は、入札制度で建設権を得た市民発電の事例を紹介する。


(2018年6月04日)


ドイツのFIT制度、入札で競争論理を取り入れ
(1)改正の概要 (2018年5月31日)
(2)陸上風力発電の状況 (2018年6月02日)
(4)落札した市民発電の事例 (2018年6月09日)
(5)太陽光発電の状況 (2018年6月11日)
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