2017年3月21日掲載 − HOME − エネルギー選択宣言一覧 − 2章記事
アクティブな地産地消で余剰電力を消費

テーネット(TenneT)社は、ドイツ北端デンマーク国境沿いの北フリースラントからドイツ中央を抜けてドイツ南部に至る送電網を運用、管理しています。北フリースラントは、ドイツ北部のシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州に属します。同州は、一九九〇年代はじめから積極的に風力発電を促進してきた先駆者です。年間全体の発電量と電力消費量を見ると、2015年に州全体で「物理的に」再生可能エネルギー100%化を達成しました。


大きな産業はなく、農業中心の産業構造です。電力需要は多くなく、送電網の容量も大きくありません。風力発電の発電量が多くなるにしたがい、発電施設を系統から切り離して解列しなければならない時間が増えてきました。2015年全体で、発電総量の約8%が解列されました。2億ユーロ(約260億円)を超える損害賠償金が、発電事業者に支払われています。


同州では、ドイツでも早くから送電網と配電網の整備に取り組んできました。しかし、それが追いつきません。風力発電施設は2年ほどで設置できます。それに対して、送電線の建設には10年もかかります。2つの建設のテンポが違い過ぎます。


州のハーベック環境大臣(緑の党)によると、すでに計画されている送電網の整備が完了すると、解列件数が大幅に減少すると予想されます。ただ送電網をより安定させ、発電された電力を効率よく利用するには、送電網整備によって送電網の容量を拡大するばかりではなく、地元周辺で電力需要を柔軟に管理して電力を効率的に消費することも必要になると、大臣はいいます。


電力需要を管理するとは、発電量と送電網の状況に応じて発電地に近いところで需要を増やして余剰電力を消費するということです。電力のアクティブな地産地消といえると思います。近郊の大都市において電力で熱を造って貯蔵し(Power to Heat)、その熱を需要に応じて暖房や給湯に使います。あるいは、余剰電力を電気自動車や家庭内の小型蓄電池に蓄電しておきます。


電気自動車や家庭用小型蓄電池は、まだ割高です。しかし、需要が拡大するにしたがって価格が下がっています。今後より一層普及すれば、それほど遠くないうちに手頃な価格で電気自動車や家庭用小型蓄電池を購入できるようになると見られます。 あるいは、余剰電力で水素を製造し、水素ガスとして貯蔵します(Power to Gas)。水素は後述するように、燃料電池車や燃料電池によるコジェネレーションシステムの燃料とするか、天然ガス網に供給して貯蔵することができます。天然ガス網は、現在考えられる中でも容量の最も大きいエネルギーの貯蔵庫です。


これらの方法は、いわゆるエネルギー貯蔵技術です。電力を発電地にできるだけ近いところで他のエネルギーとして貯蔵できれば、電力を地産地消したことになります。電力を大容量の高圧送電網で長い距離送電する必要がありません。


産業分野で電力の需要を意図的に増大させることも考えます。現在その対象に考えられているのは、製紙工場や電気製鋼所、セメント工場、アルミ製造工場など電力需要の多い産業分野です。ドイツ政府は、インダストリー4・0(Industrie 4.0)プロジェクトによって製造業を高度デジタル化しようとしています。これは、 第4次産業革命に向けたドイツの国家戦略です。共にデジタル化された電力供給システムと製造システムが連携すれば、発電状況に応じて産業側で製造時期と製造量を自動制御できるようになります。発電と産業側の電力需要がリンクします。その結果、産業側に材料費や製品の保管費などで余分なコストが発生する可能性があります。このコスト増は、余剰電力を格安で提供することで相殺します。余剰電力の販売価格を入札方式で決めることも考えられています。すでに関心を示している企業があるといわれます。


再生可能エネルギーは、とかく高いといわれます。解列による損害賠償額を見るだけでも、やはり高いじゃないかといわれてしまいそうです。しかしそれは、市民の暮らしや産業において利用の可能性や効率的な利用法をまだ学習している段階だからです。再生可能エネルギーが普及するにつれて、学習効果が現れます。それによって、コストが大幅に削減されます。それは、新しい技術に共通していえることだと思います。その成果は、技術革新力を押し上げ、産業の国際競争力も強化します。


再生可能エネルギーについては、コストが高いという今の段階だけのマイナス面だけを見るのではなく、もっと将来の可能性としてポジティブに見ることも必要だと思います。


(2017年3月21日掲載)

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