2024年2月07日掲載 − HOME − 再エネ一覧 − 記事
発電所はいつも動いているわけではない。さてどうする?

ドイツ政府は2024年2月05日、与党3党が電力の安定供給を確保するため、ガス発電による「発電所戦略」で合意したと発表した。


それによると、全体で10GW分の発電出力を水素を燃料として使用できるガス発電所によって実現するための入札手続きを開始するという。ガス発電の水素化は、2035年から2040年の間に目指す。


ガス発電は、需要に合わせて発電する調整力として使われるため、常に運転しているわけではない。運転していない時間のほうが短い可能性もある。その維持費を確保するため、容量市場を遅くとも2028年までに開始するという。


さらに水素を製造するための電気分解設備の建設を進めるほか、水素を利用するまで天然ガスなど二酸化炭素を排出する燃料を使用するため、排出ガスから二酸化炭素を分子して貯蔵するCCS技術の開発も促進する。


ドイツが再生可能エネルギーを拡大するのと同時に、水素経済化を目指して大型発電所による大量発電も進める一つの方法転換のようにも見える。


しかしこれは、経済界寄りで、経済優先をイデオロギーとする少数与党の自民党のご機嫌を取る『戦略』でもあるとも見れる。


ドイツの電力市場は自由化されて、価格競争が激しくなっている。そのため、発電して電力を売るだけでは利益を上げることができない。それでは、発電所を建設する資金も調達できない。


再エネの拡大で、発電電力量の変動が激しくなっている。調整力としてその変動に柔軟に対応しながら発電して、安定供給を維持する発電方法も必要になっている。それがガス発電だ。


しかし調整力発電は、常に発電しているわけではない。発電しないで、寝かせておかなければならない時間が長いのも事実。その種の発電所は発電だけでは損失を生むばかりで、投資して建設する魅力がない。発電電力量の変動にできるだけ早く対応するには、ガス発電のために発電容量に資金提供する容量市場のようなものが必要になっている。


今回の合意は、電力市場と発電構造の変化に対応した措置ともいえる。


しかし水素を製造するには、たくさんの電力が必要となる。しかし水素製造によって、電気エネルギーがそのまま一対一で変換されるわけではない。水素にはごく一部のエネルギーしか残らない。それでは、エネルギーを効率よく利用することにはならない。


かといって水素経済を構築しないと、基幹産業となる大きな企業がビジネスできる分野も制限される。再エネ依存の拡大によって、ドイツはそのジレンマに入ってきているともいえる。


実際には水素に依存して調整力として大規模ガス発電をしなくても、再エネによる分散型ガス発電で十分に電力の安定供給を維持できる。


農業から排出されるワラや家畜の糞、あるいはレストランなどで残った残飯や生ゴミを使ってバイオガス発電を普及させることだ。それによって発電ばかりでなく、地域暖房熱源も分散型で供給できるようになる。


自治体によってはすでに、分散型のバイオガス発電を実施しているところもある。しかしまだ小さな自治体が中心で、都会向けには普及していない。


そういう努力もしないで、大型経済向けに水素経済化を進めようとするのは、政治判断だとはいえ、情けない話でもある。


緑の党のハーベック大臣がなっている経済気候保護省は、今回の政府合意以外にもオプションとなる方法を立案するとしている。


合意内容にある水素化の実現目標年まで、現政権が再選されて続いている見込みはまずない。それだけに現政権を任期終了まで維持させると同時に、経済界に大型ガス発電に投資させて過渡的な問題を乗り切るための政治的な苦肉の策のようにも見えるが、どうなるだろうか。


(2024年2月07日)
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