ドイツ倫理協議会は2024年3月13日、気候変動問題に対応して対策を講じることに関し、公平性が求められるとする見解書を提示した。
倫理協議会の見解書は、気候変動対策に関して具体的な施策を提示したり、禁止すべきものを提示するのものではない。気候変動において政治、経済、メディア、社会、個人がどう対応すべきかの原則を提示するものだ。
特に、政治に対しては経済に対して経済成長を目的に温暖化を促進する政策を講じながら、市民のモラルに訴えて気候変動のことを考えて行動するよう呼びかけるのは矛盾すると警告する。
しかしかといって、個人の気候変動に対する共同義務が免除されるわけではなく、個人個人に義務があることも明確にしている。
気候変動の問題は、国内だけの問題ではない。ドイツの年間二酸化炭素の排出量は世界の2%程度にすぎない。それなのにドイツがお手本になるのだと、ドイツの経済や市民を温暖化対策においてより厳しく規制するのにも限界がある。政府は国際的に協調して、世界全体で気候変動問題に取り組むべきだとする。
国際的にも、工業国と発展途上国の間には気候変動を引き起こした責任に関して差がある。ここでも、公平に負担と責任を分配することが求められるとする。
国内においても、高所得層と低所得層では気候変動を引き起こした責任には違いがある。その負担を同じ程度に分配しては不公平。責任の重いほうにより負担増となるよう分配すべきだとする。
気候変動問題は世代間の公平さに関わる問題でもあり、気候変動問題の公平さは、自由と責任をいかに公平に分配するかの問題であるともする。
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気候問題専門家協議会が2024年4月13日に発表した政府の気候変動政策に対する見解書 |
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倫理協議会の見解書は全体で14の勧告を提示しているが、それだけで気候変動問題の公平性に関してすべての問題を網羅しているわけではない。巻末には見解書に対する一部委員のコメントを載せ、協議会の中にも意見に相違があったことをうかがわせる。
それだけ気候変動における公平さの問題は、とても複雑で、難しい課題であるともいえる。
ここにきて気候変動対策として原子力を利用するべきという意見が強まっているが、原子力を気候変動対策として利用すると、同時に核のゴミの問題を後の世代に押し付け、世代間の公平性に関わる問題となる。同じことが、二酸化炭素を分離して地層や海底に埋めるCCS技術についてもいえる。
これら技術を利用することによって発生する世代間の問題について、倫理協議会はそれを禁止するのではなく、技術を使えばその影響が発生し、それが世代間の公平さの問題に発展することを倫理的に指摘するしかないとする。
ドイツ倫理協議会は、国の独立した専門委員会で、倫理的な問題ばかりでなく、社会や自然科学、医療、法的な問題において個人と社会に対する影響について見解を提示する。26人の委員は連邦政府と連邦議会によって提案され、大統領が任命する。
ウクライナ戦争やガザ問題で揺れるドイツ社会では現在、気候変動問題が忘れられたようにもなっている。この時点で、倫理協議会が気候変動の問題、それもそれにおける公平さの問題を問題提起したのは、とても重要な提言だったと思う。
(2024年3月14日)
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