2024年1月07日掲載 − HOME − 脱原発一覧 − 記事
ドイツが電力輸入国に転じたのはなぜか?

数日前、昨年2023年になってはじめて、ドイツの発電における電源構成において再生可能エネルギーの割合が半分を超えたことを報告した(「ドイツ、発電における再エネの割合が年間で半分を超す」)。


これはドイツの昨年の電力市場データから報告したものだが、実はここで一つのことを報告していなかった。


それは、ドイツが昨年2023年に2002年以降20年ぶりに電力輸入国に転じたことだ。


ドイツ電事連のデータによると、2023年はドイツからの電力輸出が前年比で24%減少し、598億kWhになる。それに対して隣国からの電力輸入が前年比で38%増加して690億kWhとなり、輸入量が輸出量を上回った。


ただし2023年のデータは、暫定値である。


ヨーロッパ大陸では、送電網が国境を超えて連系されている。そのため電力の輸出入は、本来の意味での輸出入ではない。各国が隣国同士でお互いにやりくりしているにすぎない。


ドイツでは現在、風力発電の盛んなドイツ北部で電力が余りがちになっている。しかしその電力をドイツ南部に送電するよりは、ドイツ北部の隣国に『輸出』したほうが送電網は安定するし、電圧降下も少ない。


逆に、ドイツ南部ではドイツ北部から電力を送電してもらうよりも、ドイツ南部の隣国から電力を『輸入』してもらったほうがいろんな点で効率がいい。


ヨーロッパ大陸では、電力が余っているから、あるいは足りないから電力を輸出入しているのではない。お互いの利点になるように、電力を効率よくやりとりしている。そのためドイツでは、「電力の輸出入」といわず、直訳すると「電力の交換(Stromaustausch)」ということばを使う。


この点をよく理解してもらう必要があると思う。


そうしないと、ドイツが電力輸入国になったといっただけで、それはドイツで原発が最終的に停止して脱原発が達成されたからだと、簡単に主張されかねない。


ドイツの電力輸出入
ドイツの2021年から2023年の隣国との電力のやりとり。折れ線が0を超えた部分が『電力輸入』分で、0以下のマイナスになっている部分がドイツからの『電力輸出』分となる。ドイツでは風の強い秋から春にかけて電力の『輸出』が多い(出典:ドイツ電事連(bdew))

送電網のつながっているヨーロッパ大陸では、どの国からでも電力を購入できる。そのため電力は、できるだけ安いところで購入されがちとなる。


ドイツでは、ロシアの天然ガスへの依存度の高かった。しかしウクライナ侵攻による経済制裁で、ロシアからの天然ガス供給がストップ。天然ガス不足から、天然ガス発電の発電コストが高騰した。


ドイツでは石炭や天然ガスなどの化石燃料に炭素税が課せられ、燃料費がさらに高騰。石炭火力発電と天然ガス発電の発電コストをより引き上げた。


ドイツではその結果、一番高い天然ガス発電の発電コストが上がり、電力価格全体が高騰する。電力取引市場では、一番高い値で取引された価格が確定価格としてすべての電力に適用されるからだ。


そのため昨年2023年は、ドイツで発電された電力が他国よりも高くなる。ドイツで電力を購入するよりも、他国で電力を購入したほうが得という状態になり、電力の輸入を加速させる。


電力市場ではまず、取引提示価格の一番安い再エネ電力から取引される。他国においても再エネで発電された電力が増えてきており、ドイツ側は先に再エネ電力から購入する。その結果、ドイツに輸入された電力の半分以上が再エネ電力となり、ドイツの電源構成で再エネが増える要因ともなる。


送電網を安定して運用するには、自国内で遠方から電力を送電するよりも、隣国の近いところで電力を調達したほうが送電網が安定する場合も多い。


電力を輸入するか、輸出するかは、電力が不足するか、余るかではなく、経済的、送電網に関わる技術的な要因が大きいことがわかると思う。


もう一つの要因として、フランスで原発で発電される電力の供給量が安定してきたことも挙げることもできる。フランスでは2022年、干ばつと原発の冷却水となる川の水の温度の上昇で、たくさんの原発で発電できない状態が続いた。


そのためフランスは、電力の不足分をドイツから輸入して補っていた。それが、ドイツの最終脱原発時期が4カ月半延期される一つの要因ともなった。


しかし昨年フランスでは、原発が順調に運転されていた。その結果ドイツ南部では、原発依存度の高い隣国フランスやチェコから原発で発電された電力がドイツに輸入されるようになる。ドイツに輸入される電力の20%が、原子力で発電された電力となる。


ドイツには、電力の需要をカバーするだけの十分な発電容量がある。しかし経済的な理由、送電網の技術的な理由、隣国での発電状況の変化などから、国境を超えて電力をやりくりできるヨーロッパ大陸では、電力の輸出入の状況が変化する。


ドイツが電力輸入国に転じたというだけで、ほら脱原発によって原発が動いていないからだと、日本でいわれてしまうのではないかと心配だ。


そうなる前に、ドイツを含めたヨーロッパで電力をやりとりする背景を知っておいてもらいたい。


(2024年1月07日)
記事一覧へ
関連記事:
ドイツ、発電における再エネの割合が年間で半分を超す
原子力大国フランスの苦悩
ドイツが脱原発を延期しないわけ
関連サイト:
ドイツ電事連の2023年12月20日付けプレスリリース(ドイツ語)
ドイツ・ネット機構の2024年1月03日付けプレスリリース(ドイツ語)
この記事をシェア、ブックマークする
このページのトップへ